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一首評(第十七回)

暑い日の影はときどき淋しくて振り返ったらそこになかった
                          沙羅みなみ

『影』という連作冒頭の一首である。炎夏の太陽によって地面に黒々と映し出される主体の「影」。その濃さ、強さ。その「影」と主体との関係を軸に、評を進めていこうと思う。

 まず、歌に詠まれた状況を整理してみる。「暑い日」は、それだけでは単に温度が高い日ということであり、天気までは読み取れない。曇っていたり、雨が降っていたりする蒸し暑い日という可能性もある。しかし、「暑い日の影」という描写がなされた場合、そこで喚起されるイメージは真夏の強烈な日差しを放つ太陽と、それによって作り出されるくっきりとした影である。また、作中主体が影を振り返って確認していることから、太陽は主体の正面にあると考えられる。現実に影が消失してしまうことは考え難いため、これは実景ではないだろう。
 影は主体によって形作られるものであり、主体の存在の強さこそが、影の強さである。前述の通り、状況から考えれば、作品内の影はくっきりとしており、「淋し」さとは無縁のもののように思われる。しかし、「影」は主体にとって「淋し」いものとして感じられている。その上で、作者が「振り返っ」たということの意味について考えると、それは自分の影が確かにそこにあるかを確認したかったからだろう。作者は自分の「影」の存在を確実視していない。そのことを反転させれば、作者は自己の存在を確実視できていないということになる。影は太陽光線を遮ることで、地面に浮かび上がる。影がないかもしれないということは、私の体を光線が透過してしまっているかもしれないということであり、すなわち、自分がそこに実体として存在していないかもしれないということである。
 影は外的な要因である太陽によって浮かび上がる。このことは、自己というものが外的な環境によって常に規定されながら存在する、ということを示唆している。家族と在るときの自己、友人と在るときの自己、学校での自己、会社での自己、公共の場での自己……というように。一人でいるときでさえ、自己は「他人の目に触れていない環境」という仕方で、外部によって規定される。それ以外の自己の在り方を考えることは難しい。「淋し」がっているのは「影」であって主体でもある。両者は決して切り離すことができない。
 作中主体がときどき感じる「淋し」さは、そうした外部による規定が、主体にとっては、失われかけているように感じられているということを意味する。それは、現実において、あらゆるコンテクスト(=他人による規定)を無視して、自由に振る舞えるようになるということではない。そうではなく、主体の感覚として、他人との関係性の喪失感・世界から浮き上がってしまっている感覚があるということだろう。この場面においてどう振る舞えばよいのかわからない、いう感覚は私たちも感じたことがあるものだ。すなわち、私がある環境の中で私であるという感覚は、その環境によって規定された自分がどれほどの存在感を持ちうるか(これは、主観的なものであるだろう)ということに依存する。そして結句である。ここでの「影」が「なかった」というのは、他者よる規定が感覚的には完全に失われたということを意味している。その喪失の感覚は強烈なものである。
 こうした読みは、作品の収められている連作を見ていくことで、さらにはっきりしてくる。以下に、連作に収められている歌を載せる。

あざやかな影になりたしたとうれば夏の真昼の日時計ほどの

 この歌は、連作中の最後の歌であるが、連作冒頭で示された影の喪失に対し、こちらの歌では影への希求が詠まれている。作中主体は「あざやかな影」になることを望んでいる。それは、自己の影が「あざやか」になることとは、自己の存在がより強まることに他ならない。そして、それは連作冒頭で失われてしまった自己の存在を取り戻すことを強く望むということでもある。


 歌の引用はすべて、沙羅みなみ『日時計』(2014年・青磁社)によった。

2015年7月13日 柳瀬大輝
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